新・中間省略登記

「新・中間省略登記」入門

~最先端の不動産節税手法の初歩~中間省略登記の目的を達するための、新しい手法が公認されました。法務省からも関連諸団体に対してその旨が通知されましたが、まだ十分周知されているとはいえません。そこで、不動産節税手法の基本について簡単にご説明することとしました。

1・「中間省略登記」とは何ですか。
「中間省略登記」とは、節税の一手段です。
登記をしない(登記による保護を受けない)ことで、登記にかかる税金を節約しようというものです。
例えば、A→B→Cと所有権が移転しているケースで、Bへの所有権移転登記を省略し、A→Cへ直接登記を行う事です。
元来中間省略登記の申請は受付けられません。物権変動の過程(A→B→C)を忠実に登記に反映させるという「不動産登記制度の理想」に反するという理由からです。
しかし、所有権を取得した者に登記法上の登記義務はなく、またいったんなされた中間省略登記の有効性は認められており(最高裁判例)、さらに登記のシステム上中間省略登記であることが登記申請時には判明しない仕組みになっていたため、事実上中間省略登記は行われて来ました。
ところが、不動産登記法の改正(平成17年3月)による登記システムの変更で、登記申請時に中間省略登記である事が判明せざるを得ないことになり、中間省略登記は事実上不可能になりました。
当然、実務界からは中間省略登記の許容を求める声が上がって来ることになります。
2・では、今般「中間省略登記」ができるようになったのですか?
「中間省略登記」ができるようになったわけではなく、それと同様の経済的効果をもたらす「直接移転売買」(第三者のためにする契約)という方法が公認されたという事です。
それは、これまでA→B→Cとされていた物権変動(所有権移転)について、Bへの所有権移転を省略してAからCに直接所有権が移転するとすることにより、「不動産登記法の理想」に沿ったものとするというものです。
これにより中間者Bへの移転登記の登録免許税はもちろん、「取得」がない以上Bの不動産取得税も発生しないことになります。
3.「直接移転売買」はどうやって行うのですか。
A-B、B-Cそれぞれの売買契約に次のような特約をつけます。

 売買契約 I

1. AはBに物件を売渡し、BはAに代金を支払う。
2. 所有権はAからC(Cは特定していなくて良い=Bの指定する第三者)に直接移転する
(第三者のためにする契約)。
3. 売買代金完済後も所有権はAに留保される。
4. Aは受益の意思表示の受領をBに委託する
5. AはBの所有権移転債務の履行を引き受ける(履行の引受け)。

 売買契約 II

1. BはCにA所有の物件を売り渡し、CはBに代金を支払う(他人物売買)。
2. Bが負う所有権移転義務はAが履行する(第三者の弁済)。これにより所有権はAからCに直接移転する。

4・「第三者のためにする契約」とはなんですか。
契約当事者の一方(A)が第三者(受益者)(C)に対して直接契約に基づく債務の履行をすることを契約の相手方(B)に約束する契約のことです(民法537条~539条)。
この場合契約当事者でないCはこの履行を受けるかどうかの選択権を有しますが、これを受ける場合(「受益の意思表示」をします)Cは直接Aに履行の請求ができます。
日常的におなじみな例として、生命保険契約(Aが保険会社、Bが被保険者、Cが保険金受取人)があります。
今回の「直接移転売買」はAB間の売買契約で、Aは所有権移転債務を直接Cに対して履行するという事をBに約束しています。これはまさしくこの「第三者のためにする契約」にほかなりません。
5・他人物売買とは何ですか。
自分のものでない財産権を対象とした売買契約のことです。
この契約を無効とする法体系もありますが、日本民法ではこれは有効とされています(民法560条)。売主はその権利を取得して買主に移転する義務を負います。
「直接移転売買」でもBは自己の所有でない(Aの所有する)ものをCに売却する契約を結びますから、他人物売買であるということになります。
6・「履行の引受け」とは何ですか。
債務者でない第三者が債務者に代わって弁済(第三者の弁済)することを債務者との間で約束することです。
代替性のある債務は原則として第三者が弁済することができます(民法474条)。
「直接移転売買」では、Bの所有権移転義務をAが第三者として弁済することをBと約束します。これが履行の引受けです。
7・その他にどんな疑問が出され、それに対してどんな回答が与えられていますか。
以下のようなものがあります。
1. 禁止されている「中間省略登記」を実現する「直接移転売買」は違法ではないのか。
→適法である(契約自由の原則)
2. A-B-Cと順次売買されている場合でもA→Cという「直接移転売買」は使えるのか。
→使える(売買契約と所有権移転は別経路)
3. 他人物売買の場合中間者は取得義務を負い、「直接移転売買」とならないのではないか。
→なる(第三者弁済可能)
4. 他人物売買を含む「直接移転売買」は宅地建物取引業法違反ではないか。
→違反ではない(例外規定に該当)
5. 「直接移転売買」では売買代金がガラス張りになるのか。
→ならない(「地位譲渡」との相違)
6. 「直接移転売買」では「中間省略登記」に比べてリスクが増大するのではないか。
→リスクは増大しない(登記のみを留保するリスクと差はない)